Dreaming Moon-夢見る月-

すみれ色の世界を愛でながら、しばし夢に浸る…素敵な時間、届けます!!

【春の雪創作】華やかな迷宮①

明るい光が差し込む森の中から、ひとりの少年が手招きしている。
…房子、こっちだよ。宝物を一緒に埋めよう!
急いで走ろうとして転んでしまった私を、優しく起こしてくれる少年。
そっと彼の手を取ろうとした時ー目覚ましのベルが鳴った。
(また、この夢…)
現実に引き戻され、目覚ましを止める。もう起きる時間だ。
心に何か物足りなさを感じている時、寂しさを感じている時ー「少年」は決まって夢に出てくる。彼が一体誰なのか、思い出せそうで思い出せない。
慌てて髪を整えていると、ドアをノックする音がした。
「…お嬢様、おはようございます。そろそろお支度を」
見ると、お手伝いのきくがそばにいた。
「あ、今日は確か…」
「本多さまのおうちのパーティーですよ。ギリギリになるといけませんからね。さぁ、起きてください」
やけにいそいそとしたきくの様子を見て、母も同じような状態だったことを思い出す。正直パーティーは気乗りしないが、家の為だと言われると断ることはできなかった。
できるだけ早く終わるように願いながら、私はパーティー用の服に袖を通した。

パーティー会場は海辺の一等地にある高級ホテルだった。煌めくシャンデリアが眩しい。
「これはこれは、ゆり子さん。お越し頂きありがとうございます」
「ご無沙汰しております。今日は娘も一緒に参りましたの」
「あぁ、房子さんですね。あのときはまだ小さかったのに」
仕立てのよい燕尾服に身を包んだ、背の高い男性が挨拶してくる。自信にみちあふれた姿に気後れし、会釈を交わすのがやっとだ。
「緊張しなくてもいい、ゆっくり楽しんでくれれば…食事はあちらのテーブルに」
「ありがとうございます…」
「そうだ、せっかくだから息子を紹介しよう。房子さんと同じくらいの年だ、少しは気が紛れるだろう。…繁邦」
背の高い、私よりは少し歳上の青年が私たちの所に来た。
「父さん。どうされましたか」
「我が家の遠戚にあたる、城之内ゆり子さんとお嬢様の房子さんだ。小さい頃、別荘でよくお会いしただろう。ご挨拶を」
「ご無沙汰しております、繁邦です。どうぞごゆっくりなさってください」
少し照れくさそうにしている繁邦さんに、少し心が和む。
(とても優しそうな方だわ。こんな方がお兄さまならいいのに…)
「きみは、房子ちゃんだね。こんにちは」
屈託のない様子に、どうすればよいかわからずもじもじしてしまう。
「房子、ご挨拶しなさい。…ごめんなさいね、人見知りで」
少しあたふたしている母に対して、優しく笑いかける彼。
その姿にまた、見とれてしまう。
「こんにちは。もしかして、繁にいさま…?」
「そうだよ。やっと思い出してくれたね。まだ小さかったから無理もないか」
その優しい笑顔と、夢に出てきた少年の笑顔が頭の中でぴたりとはまる。
(わたしがずっと求めていたのは、繁にいさまだったの…?)
心臓が早鐘を打つように鳴る。それは、何かを予感させるような合図でもあった…。